2017年02月02日

声なき蝉・空也十番勝負 読後感

 久しぶりに佐伯時代小説を読んだ。忘れかけていた通勤読書の味を少し思い出した。佐伯時代小説はサラリーマン時代の通勤読書の友だった。私は密命シリーズ全26巻と交代寄合伊那衆異聞シリーズ全23巻を周囲を忘れて読み耽ったものだった。
 
 当時、「月刊佐伯泰英」の異名をとった佐伯氏は、書き下ろしスタイルを文庫本の世界に持ち込み、上梓数も発行数も圧倒的な金字塔を打ち立てた時代小説のレジェンドだ。そして、売り上げ漸減に苦しむ業界に時代小説ブームをもたらしたのも氏だ。そんな佐伯氏も現在70代半ばにさしかかっている。幾つものシリーズを並行的に書き下ろしていた十数年前のような体力はなくなってきたのかもしれない。同時に佐伯時代小説が夢と温もりで包もうとした読者としての企業戦士の多くは既に退職している。本懐を遂げた佐伯氏が引退するとしても不思議ではない。最近は完結したシリーズを見直した完本が販売されている。その兆しと見えなくもないのだが。
 
 
IMG_3850.jpg  そんな中で生まれた空也十番勝負 青春篇は代表作「居眠り磐音」の主人公坂崎磐音の嫡子空也を主人公とする氏にとって14番目のシリーズである。氏は「居眠り磐音」の後編と受け取るか、新作と受け取るかは読者の自由だと言っているが、これは明らかに新作だと思う。読者の期待に応えたい作家本能と活字離れや出版不況にあえぐ業界への今一度の恩返しの気持ちがなせる技ではないだろうか。氏をここまで育ててくれた読者と業界への恩返し、それがこの空也十番勝負にちがいない。
 
 
IMG_3856.JPG さて、その新作「声なき蝉」であるが、上巻を読み始めて気付いたことがある。「佐伯節変調なり」である。次頁をめくるのがまどろこしく感じるほどに先の展開を追った佐伯時代小説のテーストが感じられないのである。だらだらと盛り上がりのない展開が最後まで続く。どうした佐伯?上巻は1章で済むのではないか?佐伯時代小説や何処に?功名なって老たりか(失礼!)?しかし、そんな危惧は下巻に入ると徐々に取れてきた。今に思えば上巻のだら長さは「蝉の土中は長い」を、そして無言の行(示現流奥義習得)を成就し薩摩出国の際に叫んだ「蝉は鳴き申すぞ、眉姫様!」は主人公空也(=蝉)の羽化を暗示しているのであろう。異国の血が流れる眉姫と空也の淡くせつない恋も佐伯流だ。ただ気がかりは羽化後の蝉は短命なことだが、時代小説の神様は凡人の想像をはるかに超えて物語を紡いでいくのだろう。
  
  
IMG_3842.JPG 氏は”声なき蝉”下巻のあとがきにこんなことを書いている。『どうか本屋を訪ねた折にふらりと本屋の書棚を覗いてください。そして、だれの本でもいい、手にとって紙の本の感触を改めて確かめてください。電子書籍などの出版物が生き残る道は残されているのだろう。だが、その前に書店さんで、「ああ、今の本の傾向はこんなふうか」と自分の目で確かめていただきたい。それが書店さんを元気づけ。小説家を生き残らせる道なのです。そして、「空也十番勝負 青春篇」の物語が一巻また一巻とできる唯一の道なのです。』と。バブルに沈む企業戦士の挫折感を夢と温もりで存分に包んできた氏が、業界の先行きを危惧し再び筆をとることに敬意を表し次巻を心待ちにしよう。(閑話)
  
  
  
■関連情報
 ▼佐伯泰英・密命のMyBlog総集編(MyBlog 2012年10月12日)
 ▼佐伯泰英・空也十番勝負 青春篇(MyBlog 2017年1月14日)
 ▼佐伯泰英・ウェブサイト(公式サイト)
 ▼佐伯泰英・密命(公式サイト)
 ▼佐伯泰英・空也十番勝負(公式サイト)

 
  
  
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達磨50% 忙中閑話。。 閑話。。。
posted by 不惑永遠 at 14:58| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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